第12話・・・・・″焼け石に水″しかし(神戸における震災との死闘)
非常招集により参集した5人で1隊を編成し、まだ消防隊の入っていない下沢通2丁目の火災現場への出動指示を受けた。
署ガレージ内のポンプ車はもちろん、消防車両はすべて出動し、唯一広報車が1台残されただけである。僅かに残された可搬式
ポンプ、ホース、水損防止用筒先などを掻き集めるようにして広報車に積み込み、不十分な資器材に不安を感じながら出発した。
倒壊した建物や押し潰された駐車車両などに道を阻まれ、ようやく到着した消防隊を見つけるなり、付近の住民が駆け寄り
「こっちこっち」
と訴えている。倒壊した建物数棟が赤々と燃え盛り、隣接した建物へと延焼しつつある。直ちに放水を開始したいが、消火栓から
水は出ない。
もちろん水利地図はなく記憶を頼りに数100b東側に防火水槽があるはずと、すがりつく住民をふりきり移動した。
「隣の家がもたれかかって崩れそう」
「ガスが漏れている」
「つぶれた家の中に人がまだ居るかもしれない」
等、通常ならどれをとっても大変な出来事を訴えてくる住民に、応答する暇もなく、ひたすら火点を目指してホースを延した。
ようやく火点付近まで届いたホースに筒先をつけ、放水を始めるが、ますます拡大した火災に対する消防の力は、僅か1線の
ホースと、その先に付けた水損防止用ノズルだけ。立ち射ちできるはずがない。
状況のわからない住民は、そんな我々に対しおそらく
「やっと火を消してもらえる」
とでも思ったに違いない。
火災はどんどん西から東へと拡大している。
「どこかで延焼阻止を」
と考え、文化住宅2階通路へ進入。ホースを吊り上げ、放水を開始しようとした瞬間、1階から突然炎が噴き出し、立てかけられた
梯子を使い命からがら脱出。すでに手はつけられない状態である。
更に隣の建物に進入、文化住宅からの延焼阻止のための放水を開始。住民から
「私のマンションに燃え移りそう」
との叫び声に誘導されながら確認に行くと、火の勢いは予想をはるかに上回り、隊員に
「すでに火が入っている」
と告げ、ホースを引っ張り、ようやく屋外へと脱出した。
「なぜ私の家に水をかけてくれないのか」
との家人の声をよそに筒先を移動する。
唯一炎上建物からの延焼阻止に成功したマンションを除き、ことごとく火勢に突破された延焼阻止活動。結果的に4,000平方bを
越える焼損である。可搬式ポンプをかつぎ移動を数回繰り返し、10数時間に及ぶ放水の結果、防火水槽の水も底をついた頃、
ようやく火勢は衰えた。
兵庫県南部地震により発生した災害で、家族を失った方、家を失った方など、被災された方々の悲しみは計り知れない。
一方、
「消防は何している」
「水が出るのが遅い」
「早く消せ」
と様々な罵声を浴びながらも、少しでも多くの人を、少しでも多くの建物を守ろうと私たち消防隊員は、体力の限界をはるかに越えた
状態で、一生懸命、消火活動・救出活動にカの限りを尽した。このことを少しだけでもわかっていただければ幸いです。
橋本誠也(兵庫消防署)消防広報誌「雪」から転載